主に江戸について

主に江戸後期の、主に庶民の暮らしを調べながら書いてます。堅苦しくなくポップ(?)に☆読んだ本のメモが中心。

割と江戸庶民は「自由」で「平等」だったみたい、という話

今日は、江戸の身分制度について。

 

『逝きし日の面影』第7章より。

 

江戸時代って「士農工商」とか厳しい身分制度があって

将軍の専制政治で・・・

庶民は搾取されてて大変で・・・

切り捨て御免とかあるし・・・

みたいなイメージですが

 

実際はけっこう違ったみたいですよ!

 

 

自由と平等って、何でしょうね・・・??

 

 

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*本日の浮世絵は『加納』(歌川広重、1835 - 1839)
 本文とはちょっと関係あります。

 

 

 

 

 

欧米人のイメージを覆した江戸庶民の姿

 

 

日本を訪れた欧米人は、訪れる前には

「日本は専制国家であり、国民には自由も幸福もない」

と思い込んでいた

 

が、実際に日本を訪れてみると

そのイメージとのギャップに大変驚いたらしい。

 

というのは、国民、とくに下層階級の庶民が

開放的で明朗活発であり、幸福そうであり、自由を享受していると

映ったからだ。

 

実際に彼等の言葉を引用してみると

 

個人が共同体のために犠牲になる日本で、各人がまったく幸福で満足しているように見えることは、驚くべき事実である

by オリファント

 

日本の下層階級は、私の看るところをもってすれば、むしろ世界の何れの国のものよりも大きな個人的自由を享有している。

by カッテンディーケ

 

ということである。

 

実際、このブログの記事でも書いてきたとおり

江戸時代の庶民は、下層階級に至るまで開放的かつ幸福そうに暮らしている

というのは、事実といえる。

 

 

ということは、

 

江戸時代の「専制政治」「身分制度」というのは

ヨーロッパにおけるそれ=下層民が搾取されるような制度、とは

だいぶ違ったものではなかったのか?

 

そして、それはすなわち

現代の私たちがイメージするような制度と

違ったものではなかったのか?

 

 

 

 

 

個人や共同体の権利は、実は尊重されていた

 

 

幕府が病院を建てようとしたときの話。

 

長崎で幕府が病院を建てようとし、最適な土地を見つけだした。

が、そこは貧しい農夫の家と畑がある丘の上だった。

奉行はその農夫に、地価と収穫高の2〜3倍の金を払うからと

立ち退きを依頼したが、農夫は土地を譲渡するつもりはないと拒絶した。

そのため、幕府は仕方なく他のずっと不適当な土地を

病院のために購入することになった。

 

・・・このエピソードはつまり、

幕府の強制力よりも個人(しかも貧しい庶民)の権利が尊重された

ということを示している。

 

幕府は個人の土地を強制的に収用する権利を

もたなかった、ということであり、

貧しい農夫が幕府に対してこのような態度をとることができた

というのは驚きである。

 

※一応断っておくと、上記の話は正式な史料ではなく伝聞によるものらしい。けど著者渡辺京二氏によるとこのようなことはあっても不思議ではない、ということなので引用。

 

 

 

もうひとつ、これは町同士の喧嘩の話。

 

ある町の住人と、その隣町の住人とが隊伍を組んで大喧嘩をしていたとき、

警吏の部隊は「戦いを局地的に食い止めるために周囲の門を閉ざした」だけで

二時間もの間、彼らにしたい放題にさせていた。

二時間後、奉行は代理人を派遣して、双方の言い分を聞いてやり、

警吏らに命じて、人々は穏やかに家に帰るよう伝えさせた。

その結果、この命令は易々と履行された。

 

・・・この話は「町」という共同体の自治が尊重されていた

ことを示している。

 

町衆同士の喧嘩というのは、当時、彼らの慣習的な権利だった。

その解決の責任は奉行所ではなく町の長老にあったのであり、

幕吏はいわば民衆同士の闘争において、彼らの自治を認めた

(ただし、町全体の治安を守るために門だけを閉ざした)

ということらしい。

 

 

つまり。

 

簡単に言えば、

町民や農民といった庶民の個人レベル、

町や農村といった共同体レベルでは、

幕府の支配が及ぼす影響はかなり限られていて

その権利は、かなりの範囲で尊重されていた

 

ということだろう。

 

 

この著書内の別の表現を借りると

民衆が自由なのは、日本では下層民が「全然上層民と関係がないから」であり、

例えば農村には基本的に武士が介入することはなく、

年貢の徴収も幕藩領主ではなく、村請制というムラの自己責任に依存していた

というのが実態だったのである。

 

そして、

義務さえ遂行していれば、民衆は完全に自由で独立的だった

ということらしい。

 

 

なるほどー

 

 

 

 

 

上流階級は羨むような存在じゃなかった

 

上流階級=つまり武士たちは、

下層階級=つまり町民や農民たちにとって

うらやましい、と思えるような存在でもなかったらしい。

 

だって、

格式とか儀礼とかそういう拘束が多くて窮屈そうだし、

そこまで華美な服装をしてるわけでもないし、

家だってうらやましいほどの豪華な家に住んでるわけじゃないし、

だったら、少し貧しくても今の自由で満足した暮らしでいいじゃないか、

 

と、簡単に言えばそんな風だったということである。

 

また、何となく

役人は高圧で高飛車なヤな奴なイメージがあるが、

実際の江戸時代の役人は礼儀正しい人が多く、

上層階級と下層階級の関係は親和的であったらしい。

 

 

 

 

 

主人のいうことをきかない使用人

 

ここで、面白いエピソードがある。

 

欧米人たちは、使用人が「自分の言う事をきかない」ことに閉口したようである。

というのは、言う事をそのまま実行するのではなく、

使用人が自分の判断で最善と思ったように行動するからだ。

 

これは、単に「言ったことをそのままするだけ」の欧米の召使いたちとは

異なっていたので、かなり困惑したらしい。

が、やがて、

使用人は自分の責任で、自分の意志と知力で仕えようとしているのだ

ということが分かり、信頼するようになった、ということである。

 

この話は、江戸時代の身分制度についての本質を

表しているように思う。

 

 

つまり、この身分制度というのは

単なる上下関係=一方が一方に隷属する関係ではなく

それぞれが責任と自主性をもった「役割」だった、

ということである。

 

「役割」もしくは「職業」ともいえるかもしれない。

 

使用人は、形の上では主人に低頭したり平伏したり

隷属的といえる態度をとる。

が、その態度は「身分制を、ひいては人間関係を潤滑に保つためのもの」

の形式的・儀礼的なものであり、それを守ってさえいれば

 

内面的、人格的な自立は保つことができた

 

ということである。

 

 

これは主人と使用人ではなく、

例えば殿と家臣など、他の身分関係においても

だいたいこのようなものだったと想像できる。

 

 

 

 

 

まとめ。江戸の民衆は「自由」で「平等」だった

 

「自由」とは何か。

ー個人の表現とか活動が制限されないということ?

 

「平等」とは何か。

ー誰にでも同じようにチャンスが与えられているということ?

 

一般的に、個人に自由と平等を保証するシステムが

民主主義だ、みたいな認識があるように思う。

 

でも、民主主義のもとでのそれとは少し違う意味で

江戸の民衆は確かに「自由」で「平等」だった、といえるのではないか。

 

自由というのは、身分的には限定された範囲ではあるが

表現も行動もある程度制限されずにできたということ。

 

平等というのは、どんな身分の人であっても

おなじ人間として尊重されていたということ。

 

現代から見れば、

もちろん不自由だと思う部分も不平等だという部分も

山ほど存在するとは思うのだが、

私はあえていいたい。

 

江戸時代の庶民は、人々が「幸福」と感じ得る範囲での

自由と平等が保証されていたのだということ。

 

身分制は、

単なる上下関係、一方が一方に隷属するという関係ではなく

人間としては対等の立場ともいえる「役割」に近いものであり、

 

それぞれの身分に属する人々は、

それぞれの役割を誇りと責任をもって遂行し、

幸せに暮らすことができていたのはないか、ということ。

 

 

 

だいたいにおいて

 

「完全なる自由」と「完全なる平等」は

絶対に両立し得ないんだから、

 

江戸時代のこの、幸せを感じる程度の

「ある程度の自由」「ある程度の平等」って

けっこう見直されてもいいのかもしれない、

 

なんて思う。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上流階級の人々が窮屈そうに暮らしていて、

下流階級の人々が伸び伸びと生活する。

こんな風だったら不満とか起きにくいんだろうねー。

 

これは現代と反対ね。。。

 
 
 
 
PS.
 
あ、あと今日の浮世絵は大名行列です。
まわりの民衆は、ずっと低頭してるんじゃなくって
実際は、先頭のあたりが通り過ぎたら普通に作業とかしたらしいです。 

 

 

 

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